Search
Library
Home / 恋愛 / 機械仕掛けの偶像と徒花の聖女 / 56話 地下牢での目覚め

56話 地下牢での目覚め

Author: 日蔭スミレ
2025-06-25 14:30:31

 遠くでシュネの呼ぶ声が聞こえて、キルシュは瞼を動かした。

 確か、消息を絶ったシュネを探しにレルヒェの街に降りて……伯爵家に帰って。その一連を思い出した途端、キルシュははっと瞼を開けた。

(シュネさん……!)

 しかし随分と埃臭い。横たわっていた場所は、煤けた簡素な寝台の上──キルシュは体を起こし上げてすぐだった。

「キルシュちゃん! ここよ!」

 シュネの声はやはり幻聴ではなかった。キルシュが急ぎ、声の方を向くが絶句した。目の前には鉄格子。向かいの房にシュネがいた。

 しかし、黒衣のドレスの胸元は破れ、髪の毛は随分と乱れていていた。頬を撲たれたのか腫れている。それに彼女の瞳は赤々と充血し、溺れるように潤っていて……。

 まるで──〝乱暴でもされた〟ようだった。彼女の姿を見てキルシュは青くなるが、すぐさま、彼女に近付こうと鉄格子に寄って、初めて違和に気付いた。

 キルシュの両手には手かせが嵌められていた。

 その手の甲に浮かぶ「能有りの証」である紋様は、赤い塗料でべっとりと上書きされている。

 ──火輪に似た形。その周囲を囲う歯車、機械仕掛けの羽根、そして栄光を象徴する光。それはまるで、ケルンの紋様に、国教の全てをなぞったかのような、奇妙な印だった。

「……何、これ」

 ぞっとして、キルシュは訝しげにそれを見つめる。

 だが不思議な事に、力が湧いてこない。こんな状況なら、蔓草が勝手に現れてもおかしくないはずなのに。

(もしかして……権能を無効化して、《心》を遮断している?)

 屋敷に戻ってからの記憶は曖昧で、ユーリに会った後、何が起きたのかすら掴めなかった。

 ただひとつ、シュネが生きていた事だけが確かな救いだった。

 向かいの牢の彼女に、キルシュは声をかける。

「シュネさん……無事でよかった。大きな怪我はしていませんか?」

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP